episode1 紫煙の向こう

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一度だけ…かけてみようか。 一度だけ。 そして、終わりにしよう。 出ても、出なくても、一度きり。 耳に届く、呼び出し音。 10回鳴らしたら、切ろう。 1 2 3 … あと、2回… 小さく、笑みがこぼれる。 こんなもんだよな。 卒業して5年も経ったら…高校の頃の教師なんて、忘れてるさ。 それでいい。 翠がちゃんと、前を向いて歩いて行ってるなら…俺の事なんて忘れていい。 これで俺も翠を過去に出来る。 番号も消して、準備室だって配置替えすればいい。 翠を、思い出す空間を…無くしてしまえばいい。 そのとき、呼び出し音が止んだ。 息を呑んだ。 出るなんて、思っていなかったから。 ただの、自己満足のつもりだったから。 …電話の向こうにいるのは、翠? それとも…番号が変わって、この番号は別の誰かに割り振られてる?
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