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「煙草、吸ってくる」
脱ぎ散らかした服を拾って身につけて、自分のではないそれをベッドの上に放ってやる。
「…ぅん」
聞こえてきた返事に満ちてる不満の色は、見えないことにした。
コートを羽織ってベランダに出る。
深夜の街は暗くて静かだ。
白い吐息が夜の闇の中に溶けていく。
煙草、とりあえず吸っとくか…
別に煙草を吸いたいわけじゃなかった。
行為の後の部屋を出てくる口実に、丁度いい。
それだけだった。
くわえた煙草に火をつけて、一息だけ吸い込んだ。
細く吐き出した煙が夜風に流れていく。
あとは…ぼんやりと手元の煙草が紫煙をたなびかせながら炭化していくのを、ただ眺めていた。
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