+それは緩やかに変わっていく+

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 婚姻届は24時間受付けていた事をぼんやりと思い出して、時計に視線を移す。時計の針は、もうすぐ夜の10時になろうとしていた。  コポコポと囀り出したコーヒーメーカーに呼ばれて真一郎は席を立つ。 「飯、美味かった。ワイン合いそうなの作ってくれてたのにごめんな」  くしゃりと翠の頭を撫でて、真一郎の背中がキッチンに消えていった。  真一郎は車を運転できるようにお酒を飲まなかったのだと判ると、きゅうっと胸が締め付けられる。  ペン立てに立ててあったボールペンを手に取ると、唯一残されている「妻になる人」という空欄に自分の名前を書き記していく。  婚姻届を書いている実感なんて、全くなかった。  どこか夢見心地の様な、ふわふわした感覚。書き終えてから漏れているところが無いか目を通して、それからペンを置いた。  キッチンでは、真一郎が買ってきたケーキを冷蔵庫から取り出してお皿に乗せているところで、翠は背中から腕を回して真一郎をぎゅっと抱きしめた。 「どうした?」  いつも通りなのか、いつも通りを装っているのかは判らないけれど、いつもと変わらない真一郎の声。 「お願いしていい?」 「なに?」 「役所、連れてってくれる?」 「……もちろん」
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