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「…好きじゃなくてもいい」
思わぬ距離で聞こえた声に驚いて傍らを見ると、彼女がすぐ近くに立っていた。
「そんな事言わなきゃよかった。
…煙草、全然吸ってないじゃない」
「…ごめん」
火をつけたけれどろくに吸ってもいない煙草を、携帯灰皿にねじ込んだ。
「寒くない?」
コートを着ていない彼女に尋ねつつ、羽織っていたコートの前を開けて、来る?とだけ示してみる。
「…そういうことされると、期待したくなるじゃない」
「あー、ごめん」
期待したくなる、といわれるとそれは駄目だな、と思ってしまう。
目の前に居る彼女と自分の関係は、今はまだ恋人同士。
だけど…お互いに、この関係は終わりなのだと気づいていた。
「謝らないでよ」
見上げてくる彼女の瞳には、涙が溜まっていた。
「いいなぁ、あなたの好きな人。
何年も会ってもいないんでしょ?
それなのに…あなたの心を独り占めできてるなんて」
「…あいつは、俺がこんなに好きだなんて知りもしないよ」
俺だって、こんなに忘れられないなんて思いもしなかった。
「近くに居たら…見てくれるかもって期待したの」
真っ向から否定するのは、躊躇われた。
きっとたくさん、悲しい思いも寂しい思いもさせたはずだから。
「やっぱり、だめなのね」
「ごめん」
「終わりにしよう?」
彼女の選んだ、その選択を断る理由はなかった。
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