episode1 紫煙の向こう

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----- 真新しいスーツを着込んだ初々しい新任の女性教師は、はにかむように微笑んだ。 「田辺 翠です。よろしくお願いいたします」 みどりという名前にドキッとした。 漢字が、同じだったから。 それに気づいたのは、俺だけじゃなかった。 「田辺先生はみどりさんなのね」 懐かしそうに笑ったのは、英語教師の熊谷先生。 御年58歳、翠の…高校2年・3年次の担任だった。 今年は同じ2年生の担任で、丁度俺の向かいに席を構えている。 そして、田辺先生は熊谷先生のクラスの副担任。 俺の斜め前に席がある。 「何年か前に、同じ字で“スイ”って読む子がいたのよ。 同じ年頃だと思うと懐かしいわ。元気にしてるかしら」 4年前だ。 同じ年頃どころか、ばっちり同い年だよと心の中で言う。 俺と翠の関係は…熊谷先生は知らないはずだ。 翠が毎日のように俺の使う物理実験準備室に通っていたのは…翠が誰かに話していなければ…誰も知らない。 あいつも今頃、どこかの会社で…あいさつしたりしているんだろうか。 俺の中で17歳の姿のままで止まっている翠のスーツ姿を想像してみたけれど、似合わなくて笑えてしまう。 翠、元気にしてるか? もう、泣いていないか?
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