2144人が本棚に入れています
本棚に追加
/496ページ
-----
真新しいスーツを着込んだ初々しい新任の女性教師は、はにかむように微笑んだ。
「田辺 翠です。よろしくお願いいたします」
みどりという名前にドキッとした。
漢字が、同じだったから。
それに気づいたのは、俺だけじゃなかった。
「田辺先生はみどりさんなのね」
懐かしそうに笑ったのは、英語教師の熊谷先生。
御年58歳、翠の…高校2年・3年次の担任だった。
今年は同じ2年生の担任で、丁度俺の向かいに席を構えている。
そして、田辺先生は熊谷先生のクラスの副担任。
俺の斜め前に席がある。
「何年か前に、同じ字で“スイ”って読む子がいたのよ。
同じ年頃だと思うと懐かしいわ。元気にしてるかしら」
4年前だ。
同じ年頃どころか、ばっちり同い年だよと心の中で言う。
俺と翠の関係は…熊谷先生は知らないはずだ。
翠が毎日のように俺の使う物理実験準備室に通っていたのは…翠が誰かに話していなければ…誰も知らない。
あいつも今頃、どこかの会社で…あいさつしたりしているんだろうか。
俺の中で17歳の姿のままで止まっている翠のスーツ姿を想像してみたけれど、似合わなくて笑えてしまう。
翠、元気にしてるか?
もう、泣いていないか?
最初のコメントを投稿しよう!