episode1 紫煙の向こう

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同じ漢字。 読み方は全く違うのに、同じ漢字だというだけで効果は絶大だった。 去年までとは比較にならないくらい、事あるごとに翠のことを…思い出した。 雨の降る夜に準備室に入るときに、怯えた目を思い出して何度ゾクッとしたことか。 そのたびに、にんまり笑顔を浮かべた猫形冷温庫に救われた。 実家の店で大量の酒を注文した結果、貰ったらしい猫型冷温庫。 物置で埃をかぶってたのを、あの隙間を埋めるのに丁度良いと思って貰っていった。 夏場の飲み物も冷たくなったし、なんだかんだで翠が気に入ってたし、十分役に立ったと思う。 保温機能はずいぶん前に壊れた。 そして、この間気がついたけど冷蔵機能も壊れていた。 冬だったから、いつ壊れたのかわからないけれど。 いつの間にか壊れるだけの時が過ぎたのか、と少し感傷的になってしまう。 一緒に過ごした翠の記憶は、色あせないままなのに。 壊れたけど…あいつが居なくなると、泣いている翠を思い出した時に落ち込んだ気持ちをどうやって浮上させたら良いのか判らない。 だから、捨てられない。 だけど、あの猫の笑顔を見ると、一緒に過ごした翠の笑顔も思い出す。 完全に、悪循環だ。
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