episode1 紫煙の向こう

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「渚、俺にも十四代」 俺の傍らの椅子を引きながら言ったのは健介さん。 健さんは、俺のバイトの先輩で、俺に酒の味を教えた人で、お互いに腹を割って話が出来る相手で、…渚の旦那。 まぁつまるところ義兄だけど実の兄のようなそんな存在。 あなたも飲むの?と呆れたように息をついて渚は健さんにもグラスを手渡した。 「あたし上がるから、あと片付けしてきてね」 そういって、渚は店の裏口から出て行った。 「一生独身で行くのか?」 「どーっすかねー…」 そんな大層な決心をして生きているわけではない。 単純に、一緒に居たいと思う相手がいない。 誰かと付き合うたびに、今度は本気になれたらいいと思っていたけれど、記憶の中の少女がいつも邪魔をした。 結局、かれこれ一年くらい彼女は居ない。 「別にお前、顔悪くないからモテんだろ」 「べつにそーでも…。もういい歳だし」 「あぁ、性格が悪いからか」 そんな事をハハッと笑って言ってくれる。   …んなこた自分でも判ってますよ。
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