藍の華は青空を請う

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 祝詞の最後の音が雨粒に吸い込まれていくのと同時に、雨はあがった。  頬に差した温かい光を感じて、藍華(らんか)は静かに瞳を開く。  白木で組まれた簡素な祭壇の向こうに広がる曇天が二つに割れて、青空が顔を見せ始めていた。  藍華は膝を上げると、背後を振り返った。  小高い丘の上に位置するこの場所からは、錦の旗が翻る王宮が良く見える。  急に晴れた青空を見て王宮に詰めた人々がどよめくのが、この場所からでも手に取るように分かった。  その困惑を切り裂くように、高らかに鉦鼓が鳴り響く。 「……間にあったみたいね」  柔らかな風に衣の袂と長い髪をたなびかせながら、藍華は笑った。  今日、この国の帝が、后を娶る。  今の鉦鼓は、儀式が始まる合図だ。 「……おめでとう、レン」  自分だけに許された帝の愛称も、今日で封印しなければならない。  彼は、后を持つ帝で。  藍華は、異形の血を引く女呪術師。  出会った時から藍華の姿かたちは変わらないというのに、彼はあっと言う間に大人になった。  藍華は一つかぶりを振ると、袂にひそませていた符を引き抜く。  宙に放たれた符はホロホロと姿を崩すと、花と光を散らしながら舞う鳳凰に姿を変えた。  どれだけ貴方に惹かれていても、どれだけ貴方が想ってくれていても、隣に立つことはできないと、最初から分かっていた。  いくら藍華が名高き術師の家系の生き残りであろうと、異形混じりの血筋の女が国を治める至高の血筋に嫁すことなど許されない。  藍華を妾妃にすることなど、彼が望めばたやすかろうに、我が儘な彼は決してその望みだけは口にしなかった。 「君の御代に、幸多からんことを」
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