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男は暫く歩いた後、急に立ち止まり、足の痛みに顔をしかめる。
今更ながら裸足である事に気付いたのだ。
辺りを見回し、履く物は無いかと探す。
だが、靴など有る筈も無く、途方に暮れ呟く。
「有るんは・・木と・・石と・・草か」
兎に角、足を覆う物が欲しい、これでは、身動きもままならない。
必死に混乱の治まらない頭を働かせ、そしていっそ足に草でも巻こうかと考えた時、ふと思い出す。
「草?草言うたら・・」
思い出したのは、小学生の頃、冬休には、母方の祖父の家に、よく帰省していた。
祖父は代々農業を営んでいた。
無口な人だった、物静かな、いつも穏やかに笑っている、そんな人だった。
冬の農閑期に、祖父はよく草鞋を作っていた。
いつも履いている、祖父のトレードマークだった。
草が履物に成る、子供心にソレが面白く、祖父に草鞋作り教わったりした。
『昔は皆コレやったんやで』
祖父には祖父のこだわりが有ったのかも知れない。
祖父の優しい笑顔を思い出す。
「じぃちゃん・・・」
少しの間ホッコリする。
しかし、男は重大な事にハッと気付き、軽く凹む。
「・・刃物が無いやん・・草どう刈んねん・・」
慌てて代わりに成る物が無いか探し始める。
四十過ぎの男が、人気の無い山奥で、ウロウロする様は、ハッキリ言って不気味である。
「痛っ!!」
足の裏に、鋭い痛みが走る。
「あぁ~っ!くそっ!! なんやコレ!」
かなりイラ付いている。
男は屈みこみ、足の裏を見れば少し出血している。
踏んだ物を手に取る。
「なんや?」
ふと気付いた。
「ん?これ・・」
良く見れば、大き目の石が少し欠けていて、欠けた部分が、硝子の様に輝いている。
「えっ!コレ! 黒曜石やん!」
希少で有用な石だ。
男は、不意に思い出す。
あれは小学生三年生の夏休み、親に無理矢理参加させられた、自治体主催のキャンプでの事。
友達のいない男は、いや、少年は一人浮いていた。
集団に溶け込めず、一人で行動する事が多かった。
そんな少年に、声を掛ける女の子がいた。
石器の作り方教室でのことだった。
ショートカットの似合う、活発な印象の少女だった。
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