始まりの男

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「さて」  と腕を組み考える、無駄に体力を消耗する気は毛頭無い。  記憶の引き出しを探り、朧気に思い出す。  あれは何時だったか。  父方の実家の隣に住んでいた、同い年の少年、モリト君。  二人でよく遊んだものだった。  彼は色々な遊びを教えてくれた。  山に川に、日が暮れる迄夢中に成って遊んだものだ。  もう、顔も朧気にしか思い出せないが。そう言えば、川で魚を取った事も有った。  あの時は確か釣竿も網も持って無かったはず。あの時は確か・・・ 「確か・・・ガチンコ言うとったっけ?」  そう呟くと、両手で持つ程の大きさの石を捜し、持ち上げる。 「えっと・・・」  川面をキョロキョロと見渡し魚を探す。 「おった」  魚を追うと岩の下に逃げ込む、モリト君に教えて貰った通りだ。  思わず頬が緩む。  手にした石を振り上げ、力一杯岩に打ち付ける。  衝撃が岩を伝い、水に広がり、魚を気絶させる。  浮かんで来た魚をパジャマのポケットに捻じ込むと、一人ほくそ笑む。 「合計八匹、これだけ有りゃええやろ」  男は余程腹が減っていたのか、急いで岸に向かって一歩を踏み出すと  また派手に転んだ。  そして、魚が三匹程零れて流される。 「あぁ~!」  情け無い声を上げ、涙目で見送る。  伸ばした手が一層哀れさを醸し出す。  それでも五匹の魚が残ったのは救いか。  残った魚を悲しげに見つめ、今度はかなり慎重に川岸に向かって歩き出す。  川岸に上がり、辺りを見回し成るべく平らで大きな岩を捜し、その上に魚を並べて深い溜息を吐く。 「はぁ・・・」  流された魚に未練を残しつつ調理を始める。  調理と言っても、鱗を取りはらわたを出し、焼くだけで調味料は何も無い。 「塩欲しいなぁ」  ささやかな贅沢を言ってみるが、無い物は無い。  しかし、少し驚く発見も有った。  黒曜石のナイフは、思いの外良く切れた。 「案外使えるやん」  しかし、問題点も見つかった。  刃先だけでは、いかにも使い勝手が悪い。 「やっぱ、グリップが要るわなぁ・・」  後で付けようと決め、グリップの事は取り敢えず置いて調理を続ける。 「次は 火か・・」  乾いた木は、先程山に入った時に草や蔓と共に集めている。  火熾しの方法も色々有るのだが、簡単な方法を選ぶ。  これからの事を考えると、やはり無駄な体力の消耗はなるだけ抑えたい。
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