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始まりの男
此処は異世界。
国境近くの、人里離れた山奥、太陽は中天、空には月が二つ。
太古の原生林を思わせる巨木が生い茂る森,その巨木の下生えをかき分けて出て来た男が叫ぶ。
「いったい、此処は何処なんや!!」
動揺を隠せない様子で辺りを見回す、見れば見る程、異様な風体で有る。
顔は芸人のホンコンにそっくりで、年は四十才程だろうか、背に蓑(みの)を羽織り、蔦の皮で編んだ袋を背負い、腰に巻いた紐には、石斧と石を加工したナイフを差している。
更に足元は草鞋(わらじ)履き。
コレだけなら未だしも、その風体を異様に見せているのは、その服だろう、空色の地に紺と白のパジャマ、所どころ破れている。
さらに頭には、小さなドラゴンを載せている。
彼は近くに人家も無い様なこんな場所で、一体何をしているのだろう?
時系列を一週間程戻そう。
その日、男は背中の違和感で目を覚ました、ゴツゴツした石の感触が痛い。
男は不快そうに上体を起こすと、寝呆け眼で周りを見渡す。
すると、まず目に入ったのは常識外れな程、巨大な木の森であった。
「・・・?」
次に下を見れば、大きな石が大量に転がっていて、すぐ傍には小川が流れている。
「・・?・・は?」
寝呆けていた頭が一気に覚醒するが、思考回路は空転するばかり、それでも必死に考える。
昨日は、自分のアパートの寝室で寝た筈だ、間違い無い、なら何故?
有り得ない状況に思考が付いていかない。
「・・え?・・何?」
混乱が加速する。
「何?どこ?ここ?・・えぇ?」
男は慌てて立ち上がり、再び辺りを見回し叫ぶ。
「はぁ? ナンで? えぇ?」
男は暫し呆然と立ち尽くした後、フラフラと歩き出す。
目的など有る筈も無いが只、《ここに居ては危険だ》そう感じた。
男はそのまま、川沿いに歩き出した。
こうして、この世界の変革は始まった、誰も知らぬ儘に。
男はこの世界に一体何をもたらすのか。
それは破壊か創造か、悲劇か喜劇か、絶望か希望か、混沌か収束か、まだ誰にも分からない。
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