一章 偽の平和と盗賊達の宴

3/121
前へ
/340ページ
次へ
「だから、俺はただの旅人だと言ってるだろ。」 決して大きくはない、町並みのど真ん中。 苛立ちの色が滲み出た声色でそう言い放つのは、いかにも旅人が好んで使いそうな、漆黒のマントを身に纏う青年だった。 とは言え、その青年が青年だと解るのは、深く被ったフードから僅かに覗く口元と、声の印象のお蔭であった。 「騙されないわよ。そんな、いかにも怪しい雰囲気プンプンの相手がただの旅人の筈ないじゃない!!」 そんな青年の前に立ち塞がるのは、質素ながらも綺麗な装飾の有る軽鎧を身に付けた少女である。 腰元には、少女には些か不釣り合いな剣を帯びていた。 綺麗に伸びた黒髪を風に靡かせながら、少女は鮮やかな紅色の瞳で青年をキッと見据える。 「はぁ…全く、お前一体何なんだよ?」 騒ぎに気付いた町の住人達が、野次馬の群れを成す様子を、フード越しにキョロキョロと見ながら青年は少女に問う。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加