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その程度のこと、わかっている。
逃亡。逃避。
僕は文庫本の劇場へ戻っていく。
気が付けば、劇場はカーテンコールが近づき、文庫の残すページはつまんで数えられる程度だった。
最後のページを読み終えた。
僕のいた劇場は全て崩れ落ち、一夜にして築き上げた景色は愛しいあの人の笑顔と共に消えていく。
気が付けば部屋に一人ぼっち。世界の始まり。
もう一度、カッターナイフを手に取った。
もう一度、君に出会えるなら。
もう一度、僕を認めてくれるなら。
もう一度、触れてもいいかい。
もう一度、傷つけてもいいかい。
刃を、左の手首に押し当てた。
だって、君は身体が冷たくなったら、僕に何も喋りかけなくなったじゃないか。
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