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誰か教えてくれないだろうか。
気づかぬ間に瞳を閉じていないかを。
いっそ、
瞼を持たない魚であればいい。
僕は、
眠りを恐れている。
彼女に初めて会ったのは水族館だった。
但し、
話をした訳ではなく、
只一方的に知っただけだ。
水族館のグッズショップで働いていた。
二度目に会ったのは、
水族館みたいな地下にある酒場。
ウェイトレスの格好をした彼女は、
酔っぱらいに殴られていた僕を助けてくれた。
三度目も同じ店だったけれど、
黒縁眼鏡をした常連の、
若いが胡散臭げな男に誘われていた。
きっと断るだろうと思っていたのに、
彼女は承諾してしまった。
何度か二人が一緒に店を出て行くのを見送った。
僕は、
男が従業員の女性とつきあっては別れを、
繰り返しているのを知っていた。
誰もが知っていたのだ。
僕は孤独を愛する。
彼女も恐らく、
そうだ。
どうして、
あの、
水族館の暗い水槽の底のような場所で長時間、
働けるのだろう。
彼女は、
まるで魚だった。
よく観察してみると瞳には何も映っていない。
もしかしたら、
起きているように見えて本当は、
ずっと眠っているのかもしれなかった。
黒縁眼鏡の男と睦み合うのも夢、
幻のように思っているのかもしれない。
だって彼女は魚だ。
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