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最後の晩餐
俺は千佳の頭をポンと軽く叩いた。何も言わなかったが、千佳には通じたらしい。にっこりと笑顔をみせた。
靴を脱ぐ。ふと玄関のたたきを見ると、千佳の足元が黒っぽく変色していた。
脱ぎおえて、足を廊下に乗せながら、千佳に言った。
「なんか、そこ濡れてるな。走ってくるときどっかの水溜まりにでも入った?」
言葉にして、ハッと気づく。
雨なんてここ一週間は降っていないことに。
千佳……
振り向くと、千佳はジーパンの裾を上げるように掴んで、下を向いていた。
「始まっちゃったみたい……」
嘘……だろ。
千佳が、千佳が消えてしまう。
手を伸ばして千佳に触れようとすると、千佳は身を翻して、俺に触らせないようにした。
「千佳……」
「来ないで。もう遅いかもしれないけど……
ごめんね。ごめんねリュウジ」
そしてドアノブに手をかけた。俺に迷惑をかけまいと、外へ行こうとする。
そんな千佳を俺は胸に抱き寄せる。それでも千佳は俺から離れようと、もがく。
「ダメ!これ以上いたら、あなたまで白いカラスになっちゃう。私、そんなの嫌なの」
涙混じりの声を俺にぶつける。
そんなこと言われたら、よけいに離したくなくなるじゃないか。
千佳の体を押さえ込むように、強く強く抱きしめた。
「千佳、俺だって嫌だよ。もうこんな世界。一緒に連れてってくれよ。独りにされるのはもう十分だ」
カッコわりぃ……俺まで涙が出てきた。千佳に悟られまいと、必死に隠したが、バッチリ見られてしまう。
千佳はそっと唇を重ねてきた。
「わかった……。一緒に行こう」
俺はお姫様抱っこをして、ベッドまで運んだ。
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