第1章

4/9
前へ
/15ページ
次へ
茉莉が異変を感じたのは、眠りから目覚めて暫くした頃だった。 普段は朝食を運んでくる足音が聞こえる筈なのだが、それが一向に聞こえないのだ。 茉莉が訝しく思っていると、微かに足音が聞こえた。 だがそれは茉莉が聞き慣れた態と抑えている足音ではなく、静かだがしっかりと聞き取れる足音だった。 茉莉は異変の恐怖に身体を震わせた。 錠が開く音が聞こえ、足音が茉莉の前で止んだ。 「茉莉…」 頭上から誰かの微かな呟きが聞こえた。 「顔を上げて。」 茉莉は言われた通り顔を上げた。 すると突然茉莉の瞳に光が映った。 そう、茉莉の目隠しが外されたのだ。 光といっても蝋燭一本が照らす弱々しい光だったが。 茉莉は必然的に目の上の相手を見上げることとなった。 その相手は長身で整った顔立ちをもつ男性だった。 「大丈夫?」 男性は茉莉の目線まで蹲ると、茉莉を拘束していた手足の枷を外した。 「動ける?」 男性の言葉に茉莉は頷き、立とうとするが力が入らず座り込んでしまった。 男性はそんな茉莉を咎めることはせず、茉莉を優しく抱き上げた。 「あ…ごめんなさい…」 「気にしないで。このまま上に行くけどいいかい?」 茉莉が小さく頷くと、男性は茉莉の頭を優しく撫で、座敷牢を出た。 茉莉は六年振りに、この座敷牢の外に出たのだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加