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茉莉が異変を感じたのは、眠りから目覚めて暫くした頃だった。
普段は朝食を運んでくる足音が聞こえる筈なのだが、それが一向に聞こえないのだ。
茉莉が訝しく思っていると、微かに足音が聞こえた。
だがそれは茉莉が聞き慣れた態と抑えている足音ではなく、静かだがしっかりと聞き取れる足音だった。
茉莉は異変の恐怖に身体を震わせた。
錠が開く音が聞こえ、足音が茉莉の前で止んだ。
「茉莉…」
頭上から誰かの微かな呟きが聞こえた。
「顔を上げて。」
茉莉は言われた通り顔を上げた。
すると突然茉莉の瞳に光が映った。
そう、茉莉の目隠しが外されたのだ。
光といっても蝋燭一本が照らす弱々しい光だったが。
茉莉は必然的に目の上の相手を見上げることとなった。
その相手は長身で整った顔立ちをもつ男性だった。
「大丈夫?」
男性は茉莉の目線まで蹲ると、茉莉を拘束していた手足の枷を外した。
「動ける?」
男性の言葉に茉莉は頷き、立とうとするが力が入らず座り込んでしまった。
男性はそんな茉莉を咎めることはせず、茉莉を優しく抱き上げた。
「あ…ごめんなさい…」
「気にしないで。このまま上に行くけどいいかい?」
茉莉が小さく頷くと、男性は茉莉の頭を優しく撫で、座敷牢を出た。
茉莉は六年振りに、この座敷牢の外に出たのだった。
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