piece2

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「わざわざ、ありがとうございます」 そう出迎えてくれた森本航大の母親は、前に会った時よりもずっと憔悴して見えた。一人息子がこんな状況に陥り、心配で堪らないのだろう。夜も眠れていないのかも知れない。 その奥で三好遥香が顔を覗かせて、手を振っている。 そんな彼女には、ちらりと視線だけを送る。そして母親と、型通りの挨拶を済ませると、早速、用件に入った。とは言っても、先に電話で、航大の様子を見に行く旨を伝えていたので、そのまま彼の部屋に案内して貰うだけだったが。 階段を軋ませながら、二階にある彼の部屋に向かう。母親は先を行きながら、現状を話してくれた 「黙って様子を見に行こうとすると、足音を聞いてか、航大が叫ぶんです。だから最近は、下で声を掛けてから上がるんですが、今日は遥香ちゃんが連絡してくれたから」 遥香ちゃんにだけでも、連絡出来るようになって良かった。そう言いながら、思い出したのだろう。ああ、そうだと、僕を振り返ると話を転じた。 「先生が紹介してくださったお医者様、週末に来てくれる事になりました。有名なお医者様のようなのに、仕事に空きを作ってくださったそうで」 部屋に籠り、足音に対して悲鳴を上げる息子。それに対して、何もしてやれない自分の無力さをどれほど、嘆き苦しんだのだろうか。 例の医者に、一縷の希望を託しているのが、その口振りから分かる。
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