piece3

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ガタン。 そんな音が振動を齎す。と同時に上半身の支えを失い、僕は強かに頭をぶつけた。その衝撃が、僕の意識を急速に浮上させる。 「っ……」 浮上した意識は、ゆっくりと痛みを認識していく。それと入れ替わるように、それまで居た緩やかで穏やかな世界は、意識の底に沈んでいった。夢を見ていたと思うのだが、既に覚えていない。 「やだ、痛そう。先生、大丈夫?」 その代わり、同情と気遣いを綯い交ぜにした声に、自分が何処に居て何処に向かっているかを思い出した。 今、僕は遥香と一緒に僕の祖母の家に向かっている。つまり、あの事件の現場に向かっているのだ。 森本航大を探す手掛かりは、あそこしか頭に浮かばなかったし、だから祖母にも連絡を入れておいた。 そしてそれは遥香も同様だったらしい。行き先は聞かなかったが、彼女が購入した切符は現場までのものだった。 始発の電車は、しかし、早朝にも関わらず座席の半分近くが埋まっていた。会社勤めの人の姿も見受けらるが、週末だからだろう。中にはくたびれた様相の乗客が、半分眠った状態で座席に身体を預けている。かと思えば、まだ目を擦りながらも、父親と今日これからを楽しみにしている少年が、嬉しそうにはしゃいだりしていた。 そんな中、一週間の疲れからか、窓から射し込む朝日の心地好さからか、僕はいつの間にか眠りに落ちていたようだ。森本航大の居場所は未だ分かっていないが、無事が確認出来た為、安心してしまった所為もあるだろう。 彼の無事は、遥香のスマホに入った彼からのメッセージを見て知った。それまで、遥香が送ったメッセージにも既読は付いていたらしい。だから彼女も今日まで待てたのだろう。それが今朝、家を出る直前にメッセージが届いたのだ。 『ここにみんないる』 『はやくきて』 と。
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