piece3

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駅と言っても、名前だけが便宜上付けられたのではないかと思ってしまうほど寂れた場所だ。その様相から想像が付くように無人駅で、当然駅員の姿はない。それでも乗客の何人かは下車するようで、外界と唯一繋がっている出入口に向かって、歩いていく姿が見える。 例の事件の後、この駅は何十年ぶりかの賑わいを見せた。鉱山が生きていた頃は、作業員やその家族が住み、彼らを訪れたり仕事を求めたりする人々で賑わっていたらしい。しかし鉱山は閉山となり、それ以外に何の産業もないこの土地は、過去のものとなった。 そこにこの事件だ。何処から湧いてくるのか、野次馬達が押し寄せてきた。当然、現場は立ち入り禁止になっていたが、そんな事は関係ないらしい。本格的なカメラを構える者、スマホで写メを撮る者、まるで物見遊山だ。おそらく、自分のブログにアップしたりして、様々な憶測を広げていたのだろう。 しかし事件はすぐに目新しさを失い、彼らの姿はすぐに何処かへ消えていった。 先日のニュースでまた少し再燃はしたみたいだが、それでも事件直後ほどではないようだ。僕達の前に駅を下りた人達はここの住人の家族で、好奇心による訪問者は見受けられなかった。 あの事件の後、家族を心配した人達が、こうして訪ねてくるようになった。中には二度と帰ってこないのではないかと思っていたような人まで、その顔を見せた。 あの事件の被害者の殆んどが、まだ特定されていない事を考えると、皮肉なものだと感じるのは僕だけではない筈だ。
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