piece3

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そんな事を考えながら、先を行く遥香の背中を見ていた。しかし彼女は僕の視線に気付く様子もなく、早足で駅の境界線を踏み越えていく。恐らく頭の中は、航大の事でいっぱいなのだろう。今日にでも彼を見付けられると思っているのかも知れない。 しかし、それは僕も同じだった。 楽観的だとは思う。それでも、自分の身近な人の身に、何かしら重大な出来事が起こるなんて、どうしても考えられないのだ。それが、あの凄惨な事件が起こった場所であってもそうだ。自分とは繋げる事が出来ず、どこか他人事のように感じている自分がいる。 遥香に続いて駅を出ると、長閑な景色が視界に飛び込んできた。青い空は雲を薄く纏い、そこから穏やかな陽光が降り注いでいる。それらが更に非現実を遠退けていく。 きっと航大は仲間と一緒にいて、僕達に悪戯を成功させた悪ガキ特有の、憎めない笑顔を見せてくれるだろう。 それでも一応、僕は大人の、しかも教師という立場から彼らを叱り、遥香は怒りながらも喜んで、航大を連れて帰るのだ。 僕達が抱えていた心配は、優しく頬を撫でる風が一緒に持っていってしまったようだ。 まるで遠足にでも来たような気分で、僕達は例の廃坑に向かって歩き出した。
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