piece3

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恐る恐るテープを潜り、廃坑に足を踏み入れる。たった一歩。それだけで、まるで異世界にでも迷い込んだような気分になった。振り返ると、テープの向こう側は陽が当たり、青々とした下草に光を注いでいる。それなのに、こちら側には一切の光が入ってこようとはしない。断絶されたような、黒。そしてその奥は、吸い込まれそうな程の、闇。 僕は、ともすれば光の中に戻りたくなる衝動を抑え、懐中電灯のスイッチを入れた。僕の横で、遥香も懐中電灯を構える。 二つの黄色い輪が、大きく薄く辺りを照らす。しかし闇は嘲笑うかのように、更に濃い深淵となって、そこに横たわっていた。 その闇には気付かない振りをして、もっと手前を照らす。 壁には、洞穴の補強に用いられたであろう柱や板が貼られている。それらは所々朽ちて欠落しているが、それでもまだその用を為していた。その上部には等間隔にランタンがぶら下がっているが、芯はなく、明かり取りには使えそうにない。そして足の下の線路跡。それは僕達を誘うように、闇に向かって延びていた。 それ以外に見るべきものはなく、とうとう僕達は、此処を支配する闇に視線を投じた。どんなに目を凝らしても、闇以外何も見えない。 僕は竦む足に力を入れて、そちらに向かった。遥香がその後に続く。 線路跡に沿ってゆっくりと。 そこから外れると、そのまま堕ちてしまいそうな不安を抱えて。そんな有りもしない妄想に囚われながら、前に進んだ。
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