7人が本棚に入れています
本棚に追加
僕達が歩を進めると闇は少し晴れ、その中に在るものの輪郭を、薄く浮かび上がらせる。線路跡の凹凸や壁のランタン、壊れたトロッコ等。全ては過去の遺物、過去の亡霊が、ぼんやりとその輪郭を浮かばせている。
闇は完全に晴れた訳ではなく、その輪郭の陰に、まるで墨でも塗ったかのような黒で存在していた。そこに何かが潜んでいるような気がして、なるべくそこを踏まないように歩く。遥香も何かの存在を感じるのか、離れないように僕の服の裾を掴んできた。
次第に背後の入り口の光は小さくなり、ますます僕達を日常から断絶させていく。それは言葉を発する事すら拒むかのようで、僕達は沈黙と闇の中を進んでいった。
時間は意味を成さなくなり、空間は過去に繋がる。
闇は悪意を以て僕達を包み、歪んだ感情で満たし始める。
そんな感覚に縛られないように、僕は足を速めた。遥香の手が離れたのは感じたが、着いてきているかを確認する余裕はなかった。
早くここから解放されたい。
その思いばかりで、気が付けば走り出していた。その時、
「先生!」
悲鳴に近い遥香の声に、我に返る。慌てて振り返ると、遥香が必死で追いかけてきていた。置いていかれるかも知れないという恐怖で、その顔は白くなっている。僕は深呼吸をして息を整えると、
「悪かった」
どうにかそう、声を絞り出した。
最初のコメントを投稿しよう!