piece1

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こんな凄惨な事件のせいで、おかしな夢を見たのだろう。既に、その殆んどが霧散してはいたが、ざらついた夢の残骸が、頭に靄をかけているかのように、思考が覚束ない。 僕は冷たいシャワーを浴びて、身体に残る夢の欠片を流した。中身を失い、形骸と化してしまったそれは、僕の思考が日常に向かうと、その形さえも失う。そして、記憶の片隅にも残る事は出来ずに消えていった。ただ、何かを忘れているかのような、気持ちの悪い感覚だけが、蛇のように纏わり付いていた。 ゴミ捨て場では、三羽の鴉が我が物顔で、ゴミを漁っている。いつもの光景だ。僕が近付くと、小さく羽搏いて距離を取るが、逃げる事なく、こちらの様子を伺っているのが分かる。これもいつもの事だ。ゴミ捨て場の周囲は、鴉達によって引き摺り出されたゴミが散らばり、何処までゴミを置いて良いのか、分からない状態になっていた。 饐えた臭いが鼻をつく。 僕は、手にしていたゴミを置くと、早々に立ち去ろうとした。その時、目の端に光を捉えて立ち止まった。 鴉が、早く立ち去れとばかりに、羽を広げて威嚇してくる。僕はそれを無視して、その光の元を確認しようとした。視界が歪むような感覚に襲われる。しかし、そこには何もなく、視界も歪んではいなかった。何故だか心が沈む。 僕は軽く頭を振ると、ゴミ捨て場に背中を向けた。待ってましたと言わんばかりの、鴉の嗄れ声が聞こえる。再びゴミを漁り始めたのだろう。羽音やナイロン袋のガサガサという音、何かを突つく音が、遠ざかる僕の背中に聞こえていた。
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