piece1

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混んだ車内が嫌いで、僕はいつも早い時間のバスに乗る。だから、今朝も空席はまだ残っていた。僕達は後ろ寄りの席に座ると、先程の話を再開した。 「森本くんの事は、彼のご両親に任せるのが一番じゃないかな?」 「その事じゃないんです」 「じゃあ、どうしたの?」 森本航大は、例の事件の“若者達”の一人だった。学校側としては、その事を隠しておきたかったのだが、マスコミの目を逃れる事は出来なかったようだ。ただ、個人名までは掴めていないようで、連日マスコミが学校を訪れ、生徒達への取材を敢行していた。しかし、もともと不登校だった上に、すぐに箝口令が敷かれた事もあり、マスコミは未だ彼の情報を得てはいない。事件後すぐに彼が、学校は勿論、外に出る事が一切出来なくなった事も、関係しているのかも知れない。 恐らく彼はPTSDではないか。そう思い、僕は彼のご両親に、知人のその道に明るい医者を紹介してあった。そして彼女の話は、それに関する事だと、僕は考えていた。 「あ……森本くんの事は、森本くんの事なんですけど…………」 とても歯切れの悪い言葉に、僕は黙って続きを促す。 「あの時、一緒だった人達が、いなくなってるらしくて、森本くんから怖いってLINE貰って」 「いなくなってるって?」 「連絡が取れなくなって、そしたら、その人達の親が、一緒じゃないか、とか、居場所知らないか、とか、聞いてくるらしいんです。森本くん以外は、みんな、そんな感じらしくて」 つまり、例の事件に関係して、みんなが失踪したと考えているのだろう。そして、次は自分の番だと思い、恐怖を感じているのだ。 「先生、ホントにあの時、誰も見てないんですか?」
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