piece1

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確かに最近では、近くの自販機に行くにも、携帯を操作しながら、という人をよく見掛ける。便利だが、道具に振り回されているような気がしないでもない。そんなご時世だ。一人ならまだしも、全員が持たずに外出するなど、考えられない。 そこで、彼らが失踪したという考えに、繋がったのだろう。 「そうか……じゃあ、放課後にでも、彼の家に行ってみるから」 「ホントですか?」 僕が行ってどうにかなる訳でもないが、もうすぐ目的地だ。一先ずは彼女を納得させる為に、そう約束した。それに、彼から話を聞いて、その内容次第では、警察に保護を求める事も出来るかも知れない。その事もそれとなく示唆すると、彼女の難しい顔が漸く緩み、笑窪の出来る無邪気な笑顔で、頭を下げた。肩を覆う髪が、顔を隠す。それを気にする事なく、頭を上げると、 「ありがとうございます!! じゃあ、また後で!」 そう、嬉しそうに言って、背中を向けた。 後でというのは、教室でなのか、森本航大の家でなのか……きっと後者なのだろう。そんな事を考えている間に、彼女の背中は学校の門に吸い込まれていく。僕はその後を、ゆっくりと歩いていった。 運動部の、早朝練習の掛け声が聞こえてくる。いつもの日常が始まる。 マスコミが来なければ、本当の意味で変わらない日常が送れる筈だ。 でもきっと、今日も非日常の入り交じる、歓迎されない一日になるのだろう。
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