三つの激突

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「両刃剣使い? ああ、アスワドか……」 あごを固いアスファルトにつけ、頭に重い銃身を突きつけられたまま、ネラは思い出したようにつぶやきを返す。 アスワドというコードネームを持つ男は約一ヶ月前、魔の樹海と呼ばれる″クレムリ=フォレスト″にて海賊を倒した。 当時、樹海で衰弱していたレイラ姫から″嫉妬″を奪ったのも彼だ。 もっとも、その隙を作り出したのは這いつくばるネラなのだが、スペンサーは気づいていないようだ。 「確かに、あいつは強ぇなぁ」 「この国にいるのか?」 「……なんで答える必要がある?」 ネラは言いながら、不敵な微笑みを宿し、鼻を鳴らす。 「うちの戦力を知ったところで、もう遅いぞ″超人″さんよ。欠片が欲しけりゃラピタビラに行って、隊長より先に″暴食″を奪うんだったな」 ラピタビラという北国には、″暴食の欠片″を持つマンイーターという単身テロリストが潜伏している。 スペンサーは欠片を所持している食人鬼についての情報は持っていたが、潜伏場所までは知らなかった。 「ま、もう間に合いやしねぇか」 挑発的な態度を取り始めたネラに対して、スペンサーの苛立ちが募っていく。 「俺を殺したところで、形勢は変わらねぇよ。″七人の超人″がどう足掻こうが、テロリスト共が手を組もうが、組織には勝てねぇ」 ″ブラックオベリスク″に手を出すということが何を意味するのか、スペンサーは理解している。 「わかるだろ、てめぇも組織に身を置いていたなら……」 「それ以上は、言わなくていい」 秘密結社インフィニティとの正面衝突。 これまでの十年間、彼は目的としながらも避けてきた。 しかし、樹海の中で決めたのだ。激しい戦いに身を投じる覚悟と、命をかけた弔いを。 「もう俺は、逃げることをやめたんだ」 突きつけた銃身に力を込め、冷たい殺気をネラへ向ける。 「あの秘宝を破壊する為なら、何人でも殺す。てめぇらが怒らせた″超人″がどれだけ怖いか、全員に教えてやるよ」 直後、銃声が鳴り響く。 脳天に接触していた二つの銃口から放たれた散弾は、ネラの頭を突き破ることなく、頭蓋の中で跳ねて暴れる。 柱の如く立つ血飛沫を浴びるスペンサーの目は、すでにネラを見ていなかった。 ーーーーー
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