炎の復活と虚ろな亡霊

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ーーーーー ″裕福街″にて行われた三つの激突にそれぞれ終止符が打たれた、少し後。 グディルフ緑地公園という巨大な憩いの場を迂回し、ただひたすらに走り続けていたライスは、目的の倉庫街へと到着していた。 激しく息を切らし、大きな建物の路地に身を隠しながら、遠目に見える倉庫郡を眺める。 それは倉庫街と呼ぶには、あまりにも豪華な景観だった。まるで高級住宅街と言わんばかりに、大きな一軒家が建ち並んでいる。 どれも白を基調とした、街観を損なわぬよう配慮された造りで、背は低いが幅は広い。 「倉庫……街……か……」 まだ整っていない呼吸を押さえつつ、ライスは辺りへの警戒を解かずに路地から出る。 幸い、スペンサーと離れた彼が単身でメイスン部隊と遭遇することはなかった。 ″裕福街″の中心に近づくに連れて住民の姿がちらほらと見え、軍人の姿は消えている。 彼はコードネームを持つ本隊の人間が前線に出てきたことによって、戦況が変化したのだと考えていた。 しかし、どこか府に落ちない点がいくつかある。 「俺も本隊の獲物になってんのかね」 コードネームを持つ本隊の人間が他の兵隊を下がらせたのは、″超人″との一騎討ちを望んでのこと。 スペンサーやスタントマンと別れたライスは、いわば格好の獲物。あの場で待機していた兵士達が、すぐに追いついてきてもおかしくはない。 額に滲む汗を拭い、倉庫街へと歩を進めていく。 およそ二ブロックほどの面積を誇るその場所は、″平民街″でいう豪邸が並ぶ街と相違ない。 ただ違うのは、全ての建物に二階以上の高さがないことだ。 上と下でこれほどまでに優遇の度合いが異なっている。それを改めて目の当たりにしたライスは、周囲に気を配りながら、どこかやるせない気持ちを抱いていた。 その時、 「いッ……!?」 前方からただならぬ気配を感じ、原因が視界に入る前に身を隠す。 だが、倉庫街へ続く道を横切るようにして姿を現した男は、ライスの発してしまった声を聞き逃しはしない。 『……不意打ちでもするつもりか?』 低く、くぐもった声。 慌てて建物の路地に飛び込んだライスの耳に、しっかりと届いてきた。
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