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「諦めよう!」
勢いよく手を合わせ、清々しい表情のライスが爽やかな声で言い放つ。
「だ、誰かはまだわからないんだけど、相当ヤバイって話」
「そりゃ、デッドクロスの代わりを務める奴だからな。ノワールくらいにはヤバイだろうよ」
「諦めよう!」
「こっちにはル、ルーベンもいないしね。真っ向から幹部と戦うのは……幹部じゃなくても僕は嫌」
「俺もだ。″ブラックオベリスク″を破壊できりゃ満足なんだよ」
「諦めよう!」
「でも、″奴隷街″の証拠は揃えとくだけでも役に立つよ。手伝ってくれる?」
「やめとこう!」
「状況次第でトンズラするけどな」
「逃げとこう!」
「よ、よかった。じゃあ詳しい話はまた後で」
「ハッハッハッ!」
無視を続けられたライスは、両手を腰に当てて胸を張り、真顔の大爆笑。
「なんだようるせぇな」
「俺はね、早くここから逃げたいだけなんだよ? 国を機能停止にするとか、奴隷とかどうでもいいの」
「き、君にも手伝って欲しいんだけど」
「やかましゃあ! そんな少女みたいな眼で俺を見るな! 野蛮な殺人鬼だろお前さんは? 今まで黙ってたけどな、イメージと全く違うんだよ!」
協力を請うレイドを指差し、絶叫。
ライスはとうとう本音をぶち撒けた。スペンサーの忠告を破って罵りはしないが、見る限り辛うじての状態だ。
「長々と喋ってくれたねぇ、お二人さん。それもド派手に明かりがついた工場地帯の真ん中で!」
「そ、それなら心配いらないよ……これは陽動のつもりで、今頃は僕の味方になった地元民が検問所で騒ぎを起こしてるはずだから」
「計画実行中かよ!」
「まぁ、ライスの言うことも一理あるな。移動した方が安全に話ができるのは確かだ」
「……そうだね」
スペンサーはテントの中へ入り、レイドは荷物を片付ける。
「あ、これ……よかったらどうぞ。お近づきのしるしに」
ライスに渡されたのは、紙皿に乗せられている冷めたステーキ。
それを無言で頬張り、汚ならしい咀嚼音を立てて完食。
準備を整えた三人は、ひとまず工場地帯を後にする。
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