考古学者

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すると、彼を守る結界は崩れ去った。途端に額に小さな五芒星が浮かび、ニコラスの全身が光に包まれていく。 「間に合わなかったか」 口には出さなかったが、スペンサーは″解宝″を温存するつもりだった。奴隷街の戦いから一週間。丹念に手入れを施していたとはいえ、まだ日が浅い。 「ぐぅ……ォオオオ……オオオオオオオ!」 額に刻まれた五芒星から、ニコラスの全身に網状の紋様が広がっていく。呻き声をあげ、身体を取り巻く光は消える。 「……さて」 うつ向いた顔をあげると、両の瞳にも小さな五芒星。スペンサーからは見えないが、舌の上にも同じものが描かれている。 「一対一だ」 ニコラスがそうつぶやいた矢先、エントランス内に存在する全ての五芒星から光線が放たれた。 無造作に、しかし直線的に放出された光線は、スペンサーを狙ったものではない。 「″五芒星印の遊技場(ペンタグラムアスレチック)″」 五芒星同士を繋ぎ合わせ、消えない。様々な角度でエントランスを埋め尽くし、行動範囲を狭めている。 「仕方ねぇ……か」 五芒星が刻まれたヘッドホンを装着したニコラスに、もはや声は届かない。 ″半堕羅(ハンダラ)″。秘宝との同化を行うことで、秘められた力を最大限に発揮する手法。 使用できる者は組織内でも少ない。戻れなくなるというリスクを負い、″堕落″となる危険性を恐れないものだけがたどり着く境地。 ニコラス自身も、完璧に行えるわけではなかった。それを証拠に同化状態では、聴力を失っている。 「そっちが″半堕羅″なら……」 スペンサーは左手の銃をホルダーに戻し、右手に持っていた″アミィ″を両手で構える。 「……俺も半分だ」 ″半解″。 一対の宝具を持つ者のみが、使用できる″解宝″のひとつ。 スペンサーの宝具は″解宝″時の負担が尋常ではないため、片方を温存しての全力戦闘に切り替えた。 これを行えるのは、スペンサー、ラッセル、ロベリアの三人。トニーの場合は片方を解き放つと紫電が身体中を巡り、自動的にもう片方の″解宝″が完了してしまう。 「舐めてるな? この俺を」 「舐めてないからこそだ。インターバルが一週間じゃ不安なんだからよ」 炎が噴き出す拳銃を握り、言葉を返すが、ニコラスには届かない。
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