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異変は、仰向けに打ち倒されて動かないレイズリーの向こう、玄関前、ホテルの外から。
張り巡らされた光線を途切れさせ、黄色に染まった鎌鼬(かまいたち)がエントランスに飛来する。
その影響を受けるのは、床に寝そべるスペンサー、レイズリーの二人を除いて、たった一人。
「チッ……!」
寸前で気づいたニコラスは、高く跳躍して横向きに薙がれる巨大な風の刃をかわした。
凄まじい威力を誇る鎌鼬は、軌道上のあらゆるものを切断し、エントランスを崩壊させていく。
「流れ弾か……ブルーノは何をしてんだ!?」
外からの攻撃は単発の、およそ中にいる者を狙ったとは思えない程度のもの。
しかし、柱などが崩されて五芒星を繋ぎ合わせている光線の網が消えた。
天井が落下することもなく、エントランス全体が安全地帯と化した、この一瞬。
ニコラスからの追撃が中断され、鎌鼬を回避する為に跳躍した彼の身体が、平面上に存在していない、この一瞬。
「俺が立ってたらどうするつもりだったんだよ!」
未だ外で戦闘を繰り広げているロベリアに対し、愚痴をこぼすスペンサーは、逃さない。
「 ″百合枯(ユリガラシ)″!」
三つの巨大な百合を、銃口から噴き出る業火で描く。
ニコラスは全力で警棒を振り、迫る炎をかき消そうとするが、開いた花弁の中心に残る火の粉が、さらなる爆発を引き起こす。
「くッ……そッ……が!」
爆炎に呑まれ、ふき飛ばされて背中から天井に激突。
新たな木の実を詰めながら、立ち上がったスペンサーはフロント台に飛び乗り、そこからさらに跳躍。
天井に出現した五芒星の中に消えるニコラスの靴を掴み、自らも転送の恩恵を受ける。
「あ!?」
射程から抜け出したはずのニコラスの足元から、共に五芒星間を移動してきたスペンサーが飛び出す。
「″火芝生(ヒシバフ)″!」
勢いに逆らわず、ニコラスの顎へ頭突きを見舞い、両手に握った銃口から、さながら火炎放射のように業炎を放出。
顔を弾かれ、大きく仰け反ったニコラスに、避けきれるものではなかった。
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