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「ガァアアアアアアア!」
火達磨となった彼は、悲痛な叫びをあげて膝をつき、その場でもがき苦しむ。
スペンサーは後方に飛んで距離を空け、弾を装填。
「クソ超人が……ッ!」
全身に無数の五芒星を出現させ、ニコラスは自らを包む炎を他の場所に転送。
黒く焦げた顔全体を覆う五芒星だけを残し、そこから大きな光弾を発射する。
「ぐぅ!?」
予想外の反撃に対応できず、スペンサーの腹部に直撃した光線は派手に炸裂。嫌な音をたてて、今度は彼を天井に激突させた。
そこに浮かび上がる五芒星は、反射の性能を持つ紋章。
勢いよく床に叩きつけられ、鮮血を散らしてバウンドする。そんな状態でもスペンサーは、ニコラスから銃口を外さない。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
青白い警棒を強く握り締め、宙空で仰向けとなるスペンサーに飛びかかる。
すでに冷静な判断力は失われていた。″半堕羅″の影響からか、全身火傷による痛みは感じていない。
「こっちの……台詞だ……!」
ニコラスに向けられた銃口から、鋭い棘が無造作に並ぶ三本の蔦が伸びていく。
一本は警棒に絡み付いて制止させ、残りはニコラスの身体に巻き付き、高速で這い回る。
「″茨……蔦……″」
身動きを封じられたまま、業火によって生成された茨(いばら)の蔦に皮膚を削られ、大量の血飛沫を散らせる。
床にうつ伏せとなったスペンサーは、咳き込みながら″半解″を止める。
身体に絡み付き、這いずり回るのをやめない炎の茨は、ニコラスが仰向けに倒れ込んでも尚、その命を奪うまで消えることはなかった。
やがて、血は流れなくなる。火傷を負った皮膚が剥がれ落ち、彼がニコラス・バッケガルドであるということがわからなくなったところで、炎は消えた。
「ガハッ! くッ……そ……」
胸を押さえ、立ち上がる。
すでに同化は解除されていた。焼け焦げた衣服の綻びからロケットが転げ落ち、淡い光を纏っている。
「ハァ……ハァ……チッ、教授を追わねぇとな……」
口から垂れる血を拭い、重い足取りで黒い影となったニコラスに歩み寄る。
そこで、
「″解宝″」
寒気を覚える言葉を、耳にした。
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