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―――――翌日、午前八時。
「じ……じゃあ行こうか」
陽が昇り、三人は正規の方法で″裕福街″を目指す。
昨夜、明かりがついた工場地帯からスペンサー達は何事もなく移動を行えた。
彼らの会話の最中、レイドに従う地元民の集団が検問所のひとつを襲撃。すぐに鎮圧されたものの、そのおかげで工場地帯が戦場になることはなかった。
三人はカルニズムの街を出て、検問所に向かっている。そこは襲撃された場所の正反対に位置し、街並みも高級住宅が犇(ひし)めいている。″平民街″で最も統制された街、ラガリス。
現在のエルカニア王国では、昨夜の検問所襲撃のニュースでもちきりだ。
工場地帯の明かりが灯されたことについても触れているが、報道では誤作動と言われている。
「わざわざここから上がらなくてもな」
ラガリスは、″平民街″を代表する街。
ここの住民は二段目の中でも裕福で、あと少しで三段目に登れるような者達ばかり。
犯罪も少なく、小規模だが軍が徘徊している。下に降りてきた″裕福街″の住民が、ここから上に帰ることも多い。
故に、警備は厳重。
スペンサーのつぶやきはもっともで、レイドはわざわざ危険な橋を渡ろうとしているのだ。
が、
「こ、ここを使わないと、工場地帯の電力を回復させた意味がないからね。く、苦労したんだよ?」
童顔を苦笑いに染める彼の計画は、昨夜から発動している。
夜が明ける前、移動を終えたスペンサーとライスは、すでにレイドから計画の半分を聞いていた。
「上手くいけば儲けもんだ」
頭の後ろで手を組み、朝日が射す坂道を歩くスペンサーから、欠伸混じりの皮肉が飛ぶ。
道は白の煉瓦で造られていた。車が通るには幅が狭く、道も曲がりくねっているので堂々と真ん中を歩いている。
その後ろをついていくライスの表情は不安げだった。自分は国からの脱出を目的としているにも関わらず、この有り様。
さらに、レイドからは計画の半分程度しか話されてはいない。
それはスペンサーも同様だ。しかし、彼は止めなかった。
昨日、ラガリスにあるレイドの泊まるホテルへ移動し、計画を聞いた時、半分を説明し終えたところで、レイドは唐突に睡眠をとるといったこと。
そして、寝た。
それをスペンサーは当然と言わんばかりに、自らも眠りについてしまった。
ところがライスは、一睡もしていない。
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