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″ブラックオベリスク″についての研究資料。アレンの周りに転がるいくつかの荷物は、彼の人生そのもの。
現状、オレンジハットがそれを奪うことは容易い。アレンもそれをわかっている。
しかし、笑みを浮かべる手品師は資料に視線を移しただけで、行動に出ようとしなかった。
「質問があるんだけど、君は七つの欠片についてどれだけの情報を持っているんだい?」
長い沈黙が訪れるかと思われたが、オレンジハットは荷物から目を離さずに口を動かす。
「そこの荷物の中には、″色欲の欠片″の情報が書かれているのかな?」
世界でもトップクラスの考古学者がまとめた研究及び考察資料の全貌は、学会などに提供されていない。
アレンだけが、資料の内容を知っている。いかなる情報網があろうと、誰かが中身を知り得ることはありえない。
「現在、″色欲の欠片″だけがどこにあるかわからなくてね。でも君は裏事情に詳しくないようだし、望みは薄いかも知れないな」
顎に手を当て、オレンジハットは座り込むアレンに視線を戻し、言い放つ。
だが、アレンはオレンジハットを見ていなかった。
荷物を自分の近くへ引き寄せた考古学者が見ているのは、
「おっと」
淡々と話していた手品師の後方から駆け付けた、半裸の女傭兵だ。
「ヴィッキー!」
刀を握り、オレンジハットを背後から容赦なく斬りつける彼女の名を呼び、目を見開いたアレン。
その不意打ちは、屈まれてかわされた。それでもヴィッキーは、自らの勢いを止めずにオレンジハットを飛び越えて通過。
アレンを守るような位置取りで、謎多き単身テロリストと対峙する。
「……オレンジハットだな?」
刀を向け、女性にしては低い声で問う。
「危ない危ない……よく殺気も出さずに斬りかかれるね。付き人がいるってことは聞いてたけど、まさか女性だったなんて」
体勢を整えたオレンジハットは、帽子に右手を置いて深く被り直し、数歩後退。
ヴィッキーの右目が、敵と自分の実力差を表したイメージを読み取る。
しかし、彼女は冷たい汗を額に滲ませ、顔をしかめた。
「下の戦いは終わったのかな?」
呑気に尋ねるオレンジハットから読み取れるイメージは、巨大なオレンジ色のクエスチョンマーク。
いくら抽象的な映像とはいえ、ヴィッキーはこれほどまでに不気味なイメージは見たことがない。
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