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「ニコラス・バッケガルドを戦いで倒すのは、僕でも難しいことなんだけど」
再び顎に手を触れるオレンジハットから、敵意は感じられない。
しかしヴィッキーは刀の先端を向けたまま動かず、右目に神経を集中させる。
「……目的は何だ?」
硬直中のアレンに代わり、ヴィッキーは小さな声でつぶやくように質問を投げた。
単身テロリストとして活動する者達が、インフィニティを始めとした秘密結社を嫌っていることは知っている。
問題は、なぜ一階の戦いに参加せず、アレンの元に来たのか。オレンジハットの口振りからして、エントランスに誰がいるかは把握済みなようだ。
「僕の目的は、組織よりも先に″ブラックオベリスク″の謎を解き、秘められた力を手中に収めることだよ」
意外にも、笑みを崩さない手品師はあっさりと質問に答えを返した。それが、ヴィッキーには不気味でならない。敵意もなく、まともなイメージも読み取れない。
これまで出会ってきた者達の中で、オレンジハットは最も異質な存在と言えるだろう。
「き……君は、あの秘宝にどういう力が秘められているのか……知っているのかい?」
ヴィッキーが考えを巡らせている間、震えた声で質問を重ねるのはアレンだ。
「それがわかっているなら、君に会いに来る必要はないよ」
だがこれも、言葉を濁すことなく応答する。
「多分だけど、君達はインフィニティに資料を提供するつもりはないよね?」
一回だけ、オレンジハットは強く手を叩いた。ヴィッキーは注意深く彼を観察していたが、立っている場所から動くことはしない。
視線は銀色の刀身から、一瞬だけヴィッキーの濁った右目を通り、床の荷物へと移される。
「とても良い判断だ。つまり君達は組織を嫌い、組織が″ブラックオベリスク″の力を手に入れることを恐れてる」
オレンジハットの目は、荷物を捉え続けている。ヴィッキーは肩越しにアレンの様子を確認。
今日まで秘密結社の存在を確信していなかった考古学者は、手品師の言い分に何を思うのか。
行動を共にしてきた彼女にも、予想がつけられない。
「……テロリストに渡すつもりもない」
そこでヴィッキーは、アレンがおかしな発言をしてしまう前に、強い口調で言い放つ。
「ワオ、それはおかしな話だね」
オレンジハットは肩をすくめ、二人を嘲笑うように両腕を左右へ広げた。
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