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アレンの発言を聞き、オレンジハットはまたしても肩をすくめて嘲笑が貼りついた顔を向ける。
「僕がいつ、君の研究資料をよこせと言ったのかな?」
その言葉に、アレンとヴィッキー、二人の目が見開き、互いに顔を見合わせる。
「君と話がしたい……僕が言ったのはそれだけだ。研究資料を奪いに来たなんて、一言も口にしていないよ」
荷物に視線を向け続けていた男の発言とは思えないが、事実として、奪うつもりならとっくに奪っているだろう。
彼がアレンの前に姿を現してから、ヴィッキーが駆け付けるまでには、少しの時間があった。
オレンジハットなら、アレンと荷物の両方を奪い、この街から去るのに十分な時間だ。
「僕が君に聞きたいのは二つ。まずは″色欲の欠片″についてのことだったんだけど、知らないみたいだね」
右手の指を二本だけ突き立て、見せつけた後に左手の助けを借りて、中指を折る。
「もちろん、研究資料なんか欲しくないと言えば嘘になる。でも強引に奪うのは僕の中でフェアじゃない。手品は知恵と技術を駆使して繰り広げられるもの。力だけでスプーンを曲げても、拍手はもらえないからねぇ」
長々と言い放ったが、二人にはあまり理解できていないらしい。
「ま、そんなことは置いといて……ずっと気になってたんだ。″ブラックオベリスク″研究の第一人者は、どの説を信じているのか」
アレンの表情が変わった。おおよそ、この場で研究資料が奪われる可能性が低くなったことを自覚しての安堵と、オレンジハットの発言が、考古学者としての彼に突き刺さり、動揺や恐怖は表情から消えていく。
「あの秘宝には、大きく分けて三つの説が浮上しているよね? 君はどれを信じて、その資料を作りあげたのかな?」
世界七不思議の一つ、″ブラックオベリスク″。
″ギルティタワー″、″デッドピラーズ″、″悪魔の塔″など、地域によって様々な呼び名を持つ、伝説の秘宝の頂点。
七つの塔には、三つの有名な予想記述が存在する。どれも噂に過ぎないが、しっかりとした根拠を元に誰かが伝え遺したものだ。
「ちなみに、僕は″墓標説派″なんだよね」
オレンジハットの言葉に、アレンは深呼吸をするだけで答えようとしない。
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