8122人が本棚に入れています
本棚に追加
″兵器説″を語る者の第一声はこうだ。
『″ブラックオベリスク″は、ロック・インカエールが創り出したものである』
三つの書物に、そんな記載はない。根拠のない暴論に思えて、信じる者が多数いるのも事実。
「考えてごらん」
口を閉ざしたアレンに対し、オレンジハットは諭すような口調で手を差し伸べ、言う。
「″聖人″の骨が、七つの塔の下にある。当然、ただ山を掘るだけで発見することはできない。おそらくは七つの欠片が、″聖人″の遺体に導く鍵となる」
ヴィッキーには理解できないが、語るのをやめない手品師と、彼の話を黙って聞いている考古学者は違った。
「もちろんわかるよね? ″墓標説″が真実なら、発見者は限りない力を手に入れることができる。″聖人″の遺骨だ……ただの残骸なわけがない」
墓を掘り起こす。″ブラックオベリスク″を求める者達の三分の一は、言葉にしてそれだけの行為を夢見てきた。
しかし、相手は″聖人″。魔術が存在した時代を生き、後世に多大な影響を残した七人。
一人は神の声を聞き、一人は神の加護を受け、一人は魔術を呼び起こし、一人は魔王と称された。
最も謎多き探検家と、全ての魔術を封じ込めた者。最後を飾るのは予知の力を持っていた者。
彼らの力を追い求める理由は人によって違うだろう。ただし、大多数を駆り立てるものはロマンと言う他にない。
「さぁ、最も真実に近い男が信じているのは″墓標説″か、それとも″祭壇説″か、または″兵器説″なのか……意見を聞かせてくれたまえ」
差し出した手の指を鳴らし、オレンジハットは返答を待つ。
「僕は……」
アレンは答えを返そうとして、開いた口を途中で閉ざした。
理由は、
「おいコラ……」
オレンジハットの後方から、廊下を歩く二人組が視界に入ったからだ。
「……人が死にもの狂いで戦ってんのに、おいしいとこだけ持って行こうとしてんじゃねぇぞ」
黄金の拳銃を構え、足を止めて言い放つのはスペンサー。
その隣にはロベリアが、両足に微風を纏って歩いていた。
最初のコメントを投稿しよう!