学ぶべきこと

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″兵器説″を語る者の第一声はこうだ。 『″ブラックオベリスク″は、ロック・インカエールが創り出したものである』 三つの書物に、そんな記載はない。根拠のない暴論に思えて、信じる者が多数いるのも事実。 「考えてごらん」 口を閉ざしたアレンに対し、オレンジハットは諭すような口調で手を差し伸べ、言う。 「″聖人″の骨が、七つの塔の下にある。当然、ただ山を掘るだけで発見することはできない。おそらくは七つの欠片が、″聖人″の遺体に導く鍵となる」 ヴィッキーには理解できないが、語るのをやめない手品師と、彼の話を黙って聞いている考古学者は違った。 「もちろんわかるよね? ″墓標説″が真実なら、発見者は限りない力を手に入れることができる。″聖人″の遺骨だ……ただの残骸なわけがない」 墓を掘り起こす。″ブラックオベリスク″を求める者達の三分の一は、言葉にしてそれだけの行為を夢見てきた。 しかし、相手は″聖人″。魔術が存在した時代を生き、後世に多大な影響を残した七人。 一人は神の声を聞き、一人は神の加護を受け、一人は魔術を呼び起こし、一人は魔王と称された。 最も謎多き探検家と、全ての魔術を封じ込めた者。最後を飾るのは予知の力を持っていた者。 彼らの力を追い求める理由は人によって違うだろう。ただし、大多数を駆り立てるものはロマンと言う他にない。 「さぁ、最も真実に近い男が信じているのは″墓標説″か、それとも″祭壇説″か、または″兵器説″なのか……意見を聞かせてくれたまえ」 差し出した手の指を鳴らし、オレンジハットは返答を待つ。 「僕は……」 アレンは答えを返そうとして、開いた口を途中で閉ざした。 理由は、 「おいコラ……」 オレンジハットの後方から、廊下を歩く二人組が視界に入ったからだ。 「……人が死にもの狂いで戦ってんのに、おいしいとこだけ持って行こうとしてんじゃねぇぞ」 黄金の拳銃を構え、足を止めて言い放つのはスペンサー。 その隣にはロベリアが、両足に微風を纏って歩いていた。
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