学ぶべきこと

11/44
前へ
/1396ページ
次へ
「……なんだと?」 たまらず立ったまま前のめりになり、さらに血まみれの表情を歪めるスペンサー。 「これはスタントマンに聞いた話だよ。M・クラフトは工業地帯のダストシュートから空を飛んで脱出。彼も上層にいたらしくてね、木で梯子を作って登ったところに鉢合わせたらしい」 M・クラフトが空を飛べるという情報は、エルカニア王国の戦いに参加していた者しかわからない。 スペンサーは信じるしかなかった。途端に、あんな状況だったとはいえ、敵に全てを託したことへの後悔が胸に渦巻く。 「あたしに会いたいっていう理由は何?」 押し黙ったスペンサーを尻目に、ロベリアが尋ねる。彼女にとってはどうでもいいようだ。奴隷街の戦いにロベリアが加わっていれば、状況は違ったものになっていただろう。 「僕は今、″色欲の欠片″を探していてね」 布を反対の手に持ち替え、オレンジハットはロベリアに視線を移す。 「僕の友達の料理研究家から聞いた話じゃ、″星生街″から消えたらしいんだよ」 「……なんであたしが知ってると?」 「いやぁ、状況を考えたんだけどね。テース事件の収束後、あの場所に近づける″エール″は、君とリンジー・ウェストエールくらいなんだよね」 「俺らはお前らの誰かが持っていると思ってたけどな」 ふと口を挟んだスペンサーを、オレンジ色の瞳で睨む。 「探検部隊の連中が必死こいて探してた。こっちの選択肢は、お前らテロリストに絞られる」 「僕らも同じなんだよねぇ。インフィニティが持ってないなら、″エール″の誰かと考えるのが自然だろ?」 「どうせ、てめぇが嘘ついてんだろうがな」 「嘘が上手いのはお互い様さ」 ″色欲の欠片″を持っているのは、対話をするスペンサーだ。首からぶら下げた黒の宝石を、衣服の内側に隠している。 だが偽りの言葉を吐いたのは、オレンジハットも同じ。 エルカニア王国から奪い取った奴隷を殺したのは、M・クラフトではなく彼自身だ。 「なんなら今ここで確かめてみるか? てめぇが″傲慢″を持ってんのは知ってんだぜ?」 「フフフ、やめとくよ。四人相手にこんな狭い場所で戦ってもねぇ」 「なんで教授が入ってんのよ?」 「僕はか弱い手品師さ。この現状が怖くて怖くて仕方ないよ」
/1396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8122人が本棚に入れています
本棚に追加