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「そこで、僕はとある作戦を実行しようと思うんだ。テースで会ったと思うけど、僕の友達に医者がいてね」
スペンサーの脳裏に、Drパラノイアの顔が浮かぶ。
「あの時は使わなかったけど、彼が持つ″十肉メス″には便利な力が秘められてる。簡単に言えば、意思の弱い人間を意のままに操る力があるんだ」
爪と肉の間から飛び出す十本のメス。″心を病んだ精神科医″が、自らの指に閉じ込めた伝説の秘宝。
テースで発揮された力は、瞬時に傷を治す能力と、人間だけを切り裂き、それ以外はすり抜ける能力。そして、麻痺毒が塗り込まれているということだ。
「組織の下っ端を利用して、軍隊を作り上げた。あと67時間後、彼らはDrパラノイアを先頭にウデロンに攻め込む」
左の手首に巻いたオレンジ色の時計に目をやり、長々と話すオレンジハット。
「自殺行為ね」
ロベリアは呆れたようにつぶやきをあげた。単身テロリストが一人と、雑兵の軍勢。ランパードとシェルターの実力を知る彼女からしてみれば、結果は見えている。
「結末は火を見るより明らか……そう思ったね?」
ロベリアの思考を察したのか、オレンジハットは再び咳払いをして彼女を黙らせる。
「では、一緒に火を投げ込んだらどうなると思う?」
「何が言いてぇんだよ?」
「ヒートスキンを向かわせた。おそらくDrパラノイアが攻め込むのと、ほぼ同時に彼はウデロンに到着する」
″炎の生物兵器″。
テースの一件で、スペンサーは彼と対峙していた。
「……奴とも同盟を結んだのか?」
「まさか。世の中には、どうしようもない力というのがあるもんだよ」
「ヒートスキンね。結局は単身テロリストが一人増えただけでしょ?」
ロベリアは、呆れ顔を崩さずに意見を挟む。だが、直接的な関わりを持ったことがあるスペンサーの考えは違った。
「奴をランパードにぶつける気か?」
「どうなるかは僕にもわからない。彼は僕が知る中で最強の生物……あれを生物と言っていいのかは疑問だけどね。面白くなるのは確かさ」
ヒートスキンは、誰にも止められない。
組織はテースに四人の幹部を呼び寄せたにも関わらず、宴の招待状を彼に渡さなかった。
否、関わりを持とうとしなかった。危険過ぎる爆弾に、触れることを恐れたのだ。
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