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真相はわからない。
ヒートスキンを放置することで、迷宮の街を壊させるつもりだったのか。しかし実際、ノワール以外が彼についての話題に触れようとはしなかった。
「さて、僕はちゃんと話した。本当のことを、少しの偽りもなくね」
帽子のつばを撫で、ゆらゆらと布をはためかす。
「君に喋ってもらいたいのは、エルカニア王国に現れたという幹部、ポルターガイストについて……だよ」
「……奴はウデロンの戦いに関係ねぇだろ」
「そんなことないさ。あのアリス・E・ナイトレイが″エール狩り″に就いてる限り、君らの誰かを追って雪山に来てしまう」
インフィニティがポルターガイストに任を解いたことは、まだ外部に漏れていない。
さらに彼女の存在は、洗浄同盟が調べても情報を得られなかった幹部の一人。
エルカニア王国に現れたことで、オレンジハット達はコードネームと力の一端を知ることができた。
しかしまだ、情報が不足している。
が、
「組織はもう、俺らに執着してないのかも知れねぇぜ?」
スペンサーの発言に、オレンジハットの眉が少しだけ動いた。彼にとって、かなり予想外の答えだったらしい。
「さっき、ニコラスと連れの女が言っていた。俺を殺す権限があるとな。ポルターガイストは違った、無茶苦茶な奴だったが、俺を殺さないように力を抑えてるようだった」
スペンサーは確かに聞いた。裕福街の借倉庫地帯で、彼女の抱えた人形が奇怪な声で放った言葉。
『″エール″は殺しちゃダメなんだった!』
人形の声は、嫌でも鮮明に思い出せる。耳を刺すように高く、胸にのしかかるような低い声。
「おそらく、エルカニア王国の状態を知った元老院が優先順位を変更したんだ」
「つまり……今は″エール″よりも先にやることがあると? 最悪、君らを殺してしまっても仕方ないと思えるほど、大事なことってわけだね」
「ニコラス・バッケガルドは、俺らを狙ってこの国に来たわけじゃねぇ」
スペンサーとオレンジハット、そして腕を組んで立ち尽くしていたロベリアの視線が、同時にアレンへ向けられる。
「やるかもな、強行手段。″ブラックオベリスク″近辺に謎の戦力を派遣したなら、あまり時間は残されてねぇ」
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