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夜が明け、快晴の空の下。穏やかな波に揺れながら、一隻の船が海を渡っている。
巨大な水瓶を抱えた女神の船首像、青か緑かわからない色に濁り、ボロボロになった帆。
伝説の木造帆船、″アクエリアス・ガーデン号″。その船に乗る海賊達は、リンダン諸島に向けての航海を終える為、今日もせっせと働いている。
甲板に射し込む朝日と、雲のない空を飛び回るカモメの声が届かない、″古代三大帆船″の船長室にて。
「ノーフェイスはすでに、ディファイ島に到着したらしい。急いだ方がいいか?」
一等航海士兼会計士、そして副船長の肩書きを持つ男、ロード・ワッコート。
サラサラの茶髪を撫で、華奢な体躯に似合わぬ黒の大斧を背負う彼は、覗き窓のない木製の扉の前に立ち、懐に携帯電話をしまい込む。
「待たせときァいいんだよ」
言葉を返すのは、″アクエリアス・ガーデン号″の船長、ラッセル・ハンズエール。
浅黒い肌、頭に黒い手拭いを巻き、鮮やかな赤毛を隠す。服装は船内には似合わない、上下赤のジャージ姿。
彼は椅子の背にもたれ、何も敷いていない木製テーブルの上で足を組み、ラム酒が入った瓶を片手に、ロードに対して指示を送る。
「このままでも昼間には着くだろ? 十分じゃねェか」
「なら、ドレクセルにもそう伝えておこう」
そう言って、ロードは扉を開けて部屋を後にした。しかし、広く、殺風景な部屋に残されるのは、ラッセルだけではない。
「いいのかよ?」
彼から向かって右、窓のある壁際で椅子に座るのは、迷彩服にサングラスをかけたトニー。
テーブルから離れているのは、単に彼の椅子に背もたれがないからだ。壁に体を預け、赤いリンゴをかじっている。
「俺ァ待つのが嫌いでな。今回もわざと到着を遅らせてある」
「デートで女の子を待たせる男は最低なんだよ?」
トニーに言い放ったラッセルに対し、強気な口調で横やりを入れるのは、この船の長とテーブルを挟んで対面に座る少女。
純白のショートカット。頭には同じ色の花冠を乗せ、服装はジルバ王国に仕える女性用軍服を改変したもので、袖と丈が短く、ポケットも追加されている。
「心配しなくても、待ち合わせの相手はテロリストだ。悪人を待たせて問題があるのか?」
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