第1章

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こんな夢を見た。 車のシートに深くもたれかかり、波の音を聞いていた。 蒸し暑く寝苦しい夜だったので、なんとなく車で海岸まで行ったらしい。 あたりには濃密な夜の闇がひろがっている。 聞こえるのは波の音ばかり。 わたしは波の音を子守唄にうたた寝をした。 夜明けはまだ遠い。さざ波の音が心地よい。 車のドアを叩く音がした。 開けてみると小学生くらいの男の子が立っていた。 外は風が強く吹いており、高波の音が聞こえてくる。 夢うつつの思考で、こんな深夜になぜ子どもがひとりでと疑問に思った。 「今、すごくいい波だよ。お姉さんも来てみたら」と少年が言うので、わたしも外に出て近くまで見に行こうかなという気になった。 しかし、まだ眠かったので 「うん、ありがとう。もう少ししてから行くね」と応えドアを閉めたのだが、外からは興奮した少年の声がした。 「本当にいい波だよ。今がぜったいにいいよ」 あまりにもしつこいので、少し怒った口調で「わかったから。静かにして」と言うと、少年は無言になり、そして呟いた。 「本当に、いい波なんだよ。おれ、あの波で死んだんだ……」 はっとしてドアを開けたが外には少年の姿はなく、夜の闇だけがあった。
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