0人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな夢を見た。
車のシートに深くもたれかかり、波の音を聞いていた。
蒸し暑く寝苦しい夜だったので、なんとなく車で海岸まで行ったらしい。
あたりには濃密な夜の闇がひろがっている。
聞こえるのは波の音ばかり。
わたしは波の音を子守唄にうたた寝をした。
夜明けはまだ遠い。さざ波の音が心地よい。
車のドアを叩く音がした。
開けてみると小学生くらいの男の子が立っていた。
外は風が強く吹いており、高波の音が聞こえてくる。
夢うつつの思考で、こんな深夜になぜ子どもがひとりでと疑問に思った。
「今、すごくいい波だよ。お姉さんも来てみたら」と少年が言うので、わたしも外に出て近くまで見に行こうかなという気になった。
しかし、まだ眠かったので
「うん、ありがとう。もう少ししてから行くね」と応えドアを閉めたのだが、外からは興奮した少年の声がした。
「本当にいい波だよ。今がぜったいにいいよ」
あまりにもしつこいので、少し怒った口調で「わかったから。静かにして」と言うと、少年は無言になり、そして呟いた。
「本当に、いい波なんだよ。おれ、あの波で死んだんだ……」
はっとしてドアを開けたが外には少年の姿はなく、夜の闇だけがあった。
最初のコメントを投稿しよう!