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 つい先ほどカザンから顔面に何発も打撃をくらった少年の言葉とは思えなかった。精神的なダメージからはとっくに回復しているのかもしれない。  佐竹(さたけ)宗八(そうはち)元軍曹との準決勝最終戦まで、あと15分くらいのものだろう。タツオは早口でいった。 「最初のマイクパフォーマンス、あのときから意識してジョージはカザンをはめたんだね?」  茶髪のエウロペ混血児が苦笑していった。 「はめたというのはいい日本語じゃない。ぼくはちょっとだけ誘導したんだ」  後ろから後頭部に一撃というような卑怯(ひきょう)な手は止めてくれ。そのようなことをジョージはいっていた。観客によりよい試合を見せるために、正々堂々正面から闘おう。準備と整えた上で、カザンを誘いこんだのだ。大観衆の前で相手の自尊心と顕示欲に訴え、必殺の一発を準備しながら。いざとなればこの天才児は悪辣(あくらつ)な策士にもなれる。敵に回せば恐ろしい相手だ。
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