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「ジョージは試合開始から即座に、中腰で両手をあげ、勁を練り始めていたね。カザンが近づいてくるのが見えていたのか?」  東園寺家秘伝「呑龍(どんりゅう)」の催眠下で視覚がどんな影響を受けるのか、タツオには強い関心があった。つぎは自分の番だ。 「いや、よく見えなかった。体内のクロックが極限まで遅くされるのだから、世界全体が静止して見えるのかと思ったが逆だった。ぼんやりとした雲というか煙のようななにかがゆっくりと周囲で動いてる感覚だ。雲のなかに包みこまれて、なにかの気配(けはい)は感じるがそれがなんなのか、まったくわからなかった。あれは奇妙な経験だね」  貴重な「呑龍」経験者の言葉だった。もっとも秘伝対策に有効かといわれると、あまり役に立ちそうにもない。 「じゃあ、あの発勁はどうやって打ったの?」  ふふっとちいさく口のなかで笑って、ジョージがいった。 「勘頼り。なにかを感じたから、手にふれた白い雲にむかって放った。それだけだ。ぼくにはカザンのどこに当たったのかもわからなかった」
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