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颯汰君は、ああ、と短く答えると、わずかに私から目を逸らして乾いた声で笑った。
「急ぎ、って言うんじゃないですけど……。参考にさせて欲しい資料の保存先、探せなくて」
「なんだ、そんなこと」
予想通り、仕事の会話に繋がってホッとした。
「部内共有の私のフォルダに入ってるよ。もちろん、パスはかかってないから……」
「……松本さん」
明るく笑いながら返した言葉を遮られた。
思いの外低い声に一瞬ドキッとして、私は颯汰君を見上げた。
「松本さんと、何話してたんですか?」
真っ直ぐな瞳で見下ろされて、身体がビクッと震えた。
ファイルを抱えた腕に力を籠めて一歩後ずさると、颯汰君は私との距離を二歩詰める。
「な、なにって……」
いつもの颯汰君と違う。
どこか攻められるような感覚に焦った。
なのに腰がテーブルにぶつかって、私はそこから先に逃げ場を失う。
「あの人は安全牌だって思ってたのに。……意外だった」
「颯汰君?」
颯汰君は容赦なく私との距離を狭めた後、私を囲むようにテーブルに腕を伸ばした。
近過ぎる距離に、思わず背中が仰け反ってしまう。
妙に鼓動が速くなるのを感じながら、私は必死に颯汰君を見上げた。
「一ノ瀬さんから話し掛けてくれるの待ってようって思ってたけど。……待ってるだけじゃ、手遅れになりそうだから」
「っ……!?」
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