5539人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
颯汰君は早口でそう言うと、私の身体に腕を回した。
私はファイルを胸に抱えたまま、その力に抵抗出来ない。
近付いて来る唇から顔を背けて抵抗すると、首筋に颯汰君の唇を感じた。
そして、軽く吸われる感覚。
「だ、ダメっ……!」
私は必死に身体を捩って抵抗すると、颯汰君は私から唇を離した。
「ここじゃダメ? じゃあ、場所変えますか?って言うか、場所が変わっても、遠慮するつもりないですよ。
……なんか僕も、余裕なくて焦り始めてるし」
「ひゃっ……!」
言葉の通り、再度強い力に抱き寄せられる。
驚いて抗えなかったさっきとは違う。
その腕の力に、抵抗する術を失くした。
「放してっ……!」
「嫌です。……余裕ないって言ってるじゃないですか」
耳元で囁かれて、一瞬ゾクッと背中が震えた。
「僕はどうしたら……。一ノ瀬さんの心を手に入れられるんだろう」
低められた声は聞き慣れたものじゃない。
それに本能的な恐怖を感じた途端、グルッ身体の軸が回転したのがわかった。
「……っ!」
いきなり明るい電灯が目に映って、私はグッと目を閉じる。
そして恐る恐る目を開けると、私を見下ろす颯汰君で、直接の明りは遮られていた。
最初のコメントを投稿しよう!