5539人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
私は、飛び起きるように身体をおこした。
カタカタと小刻みに身体が震えるのを感じて、ギュッと肘を抱え込んだ。
「颯汰君、あの……」
「全然終わってないじゃないですか」
呼び掛けた言葉を遮られて、私はそれ以上言葉を掛けられない。
ただ颯汰君の背中を見つめると、颯汰君は俯いて自嘲気味に小さく笑った。
「離婚したのに、全然『一ノ瀬茜』に戻れてないじゃないですか」
「え……?」
「自覚ないんですか? ……一ノ瀬さん、この間も保科さんを呼んだんですよ」
ハッと息をついた颯汰君の言葉に、私はただ呆然とした。
「接待で酔っ払って、保科さんを振り切って僕の腕の中に飛び込んで来たくせに。……いざ、抱こうとしたら『鳴海』って」
表情を見せずにただそう呟く颯汰君の言葉に、身体から力が抜けて行く。
覚えてない。
覚えてないけど、颯汰君が嘘をついてるとは思えない。
「……じゃあ、あの時……」
颯汰君の隣で裸で目覚めた朝。
シチュエーションだけなら、ほとんど誤魔化しきれない状況だった。
「何もしてないですよ」
吐き捨てるように、颯汰君はそう言い放った。
「……あんな状態で保科さんの名前呼ばれたら。いくらなんでも、それ以上何も出来なかったですよ」
「あ……」
私から顔を背ける颯汰君を見つめながら。
申し訳ないって思うのに、ホッと息を吐くのを止められなかった。
最初のコメントを投稿しよう!