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決着をつける。
颯汰君に求められたのは、私にとって当たり前の義務だ。
いつもより少しだけ早目の時間にビルを出て、私はボンヤリと颯汰君に言われた言葉を考えていた。
鳴海に心は残ったままなのか。
颯汰君が話してくれたことも、私の無意識の叫びも、私はまだ正面から受け止められない。
そんなこと言われたって。
私達、本当に離婚したんだから……。
最大の試練だった家族への報告を終えて、私も鳴海も別々の方向にやっと歩き出せたところ。
鳴海に心を残したままだなんて、笑えない冗談だ。
それでも、真剣に向き合う必要があることはちゃんとわかってる。
松本さんも颯汰君も、私に本気をぶつけてくれた。
二人に同じように本気を返す為には、私も自分の心から逃げていられない。
私にとって、今、鳴海はどんな存在なのか。
私は鳴海をどう思ってるのか、これからどういう関係になりたいのか。
自分でも答えの予想がつかない。
私。私は……。
鳴海でいっぱいになる頭の中に、無機質な電子音が入り込む。
それが自分の携帯だと気付いて、私は慌ててバッグの中を漁った。
「も、もしもし?」
反対の耳を手で押さえて、携帯から聞こえる声に集中しようとして。
「あ、いつもお世話になっております。夜分申し訳ありません。
私、東京ベイサンライトホテルの……」
「……え?」
電話の相手は、何度か会ったことのある女性ウェディングプランナー。
十二月に、私と鳴海が結婚式を挙げるはずだったホテルからの連絡だった。
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