5532人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
こんな時間からオフィスに入館する私に、通用口の警備員はどこか不審気に首を傾げた。
帰路を急ぐ行員の群れを逆行して、私はいつもは滅多に乗らない低層階用のエレベーターに乗り込む。
営業本部のフロアに降り立って、いくらか照明が落ちた廊下を突き進んだ。
昼の時間なら、たくさんの来客で人通りの絶えない廊下。
数億、数十億ってマネーが取引される銀行の花形オフィス。
仕事以外の用件でここに来たことはない。
こんな静かな空気を感じるのは初めてで、ほんの少し来たことを後悔した。
大事な話だし、鳴海がまだ残業してるならここで逢えるって思った。
もし鳴海がまだ仕事中だったら、プライベートの用件で訪れた私を不愉快に思うかもしれない。
そう思ったら、逸る気持ちも少しは醒める。
せっかく来たんだから。
鳴海がまだ残っていれば、せめて話がしたいってアポだけでも取って帰ろう。
自分にそう言い聞かせて歩を進めて中に入ると、鳴海のデスクの方向に目を向ける。
そこに鳴海の姿は見つからなかったけど、デスクの上にはノートパソコンが開いたまま。
まだ書類もちらかってるし、残業中なのは明らかだった。
休憩かな。
そう思って、私はフロアを出ると給湯室に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!