止まらない想い

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こうして聞いていても、鳴海の言葉は曖昧だ。 金井さんに対しても私に対しても、その態度は何も変わらない。 それは確かに、鳴海の言う通りだった。 そんな鳴海が呟く、疲れた、って言葉。 今この場にいる私に言われたような気がした。 出逢った時からずっと、鳴海は何も変わらない。 鳴海の恋人になって、結婚して、私だけが変わった。 そんな私に向けられた鳴海のささやかな愚痴のように聞こえた。 『疲れた』 それが今の鳴海の心を占める感情なんだと思ったら、自分が恥ずかしくて堪らなくなった。 結婚式をキャンセルしてない理由。 そんなことを言い訳にして、鳴海に勢いで問い質そうとした。 残業してるとわかってて、鳴海にぶつかろうなんて。 自分の都合しか考えてない、ただ自分勝手なだけた。 「……お前さ。なんかあったの?」 鳴海の様子に戸惑って首を傾げる宮野さんの声を聞きながら、私は給湯室に背中を向けた。 あんな鳴海の声を初めて聞いた。心の底から吐き出すような、どこか投げやりな声。 あんな声を聞いてしまったら、鳴海に逢える訳がない。
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