止まらない想い

16/21
前へ
/326ページ
次へ
普通の顔をして、来たばかりの通用口を通り過ぎる。 ほんの少し警備員の視線を感じたけど、そんなの全然気にならない。 ただ真っ直ぐ前を向いて、ビルから出るのに必死だった。 都会の夜の冷たい空気が身体に纏わり付くのを感じて、私はやっとホッとした。 同時に、張り巡らしていた気が緩む。 それでやっと、頬を伝う涙に意識が向いた。 「……っ……ふ……」 嗚咽が漏れそうになるのを必死に堪えて、私は泣き声を両手で抑える。 『疲れた』なんて。 いつも自信に満ちて強気な鳴海が口にした言葉だなんて、信じられない。 それを私が言わせた。 私に向かって言わせてしまった。 一時とは言え、私は鳴海の特別に、鳴海の『妻』になったのに。 一生の愛を、幸せを誓ったはずなのに。 嫉妬に狂って、傷付いてもがいて、冷静になれなかった。 自己中な我儘ばかりを募らせて、一番大事なことを忘れていた。 信じられるか、られないか、じゃない。 信じようっていう意志を持つことを、私は最初から放棄してしまっていた。
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5583人が本棚に入れています
本棚に追加